デス・オーバチュア
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「……測定完了、アンブレラ……最大エナジー値800000000……現エナジー値355555554……なの」 黒一色の人形のような可愛らしい洋服を着た赤毛の幼い少女スカーレットは、虚空を見つめながら呟いた。 「へぇ〜、流石だね。まだ完全じゃないだろうに……それでもオッドアイやフィノより最大値が一億も上か」 髪も瞳も黒一色、黒いロングコートの十代前半の少年ナイトは、スカーレットの膝の上に頭を乗せたまま、面白そうに微笑する。 「記録されているデータだと、フィノーラ最大エナジー値700000000、オッドアイ最大エナジー値650000000……先程の戦闘時のオッドアイ最大エナジー値は650000……正し、聖剣使用時の瞬間最大値は測定不能……なの」 スカーレットは感情の感じられない機械的な声で淡々と言った。 「先程の戦闘ぉ〜? 嫌ねぇ〜、あなた達、私とオッドアイの遊戯まで覗いていたの〜?」 二人の少し後ろに立っていたセレナ・セレナーデが、言葉通り『嫌ねぇ〜』といった感じで口を開く。 「うふふふふっ、嫌らしい覗き魔さん〜」 セレナは、本気で嫌悪しているというより、からかうような、嘲笑うような、いつもの調子だ。 ようやく、何となく苦手なミッドナイトとスカーレットに対しても、普段の自分の調子を取り戻したようである。 「ゼノン平常時の最大エナジー値1000000……ちなみに、あなたの最大エナジー値はたったの530000なの」 スカーレットはチラリと視線をセレナに向けると、見下すような微笑を浮かべた。 「ごめんなさいね〜、たったの53万で。しかも、千分の一程度のエナジーしか持ってきていない魔王達と違って『全身』なのにね〜、うふふふふっ」 セレナは余裕ありげに笑って応じる。 「たったの53万……一般的に一万超えたら高位魔族、一億超えたら魔王クラスの仲間入り……53万が『雑魚』か……魔王や魔皇の一族というのは本当とんでもない認識をしているね」 ナイトは楽しげな微笑を浮かべたまま、他人事のように言った。 「あらぁ〜、そう言う吸血王様はおいくつなのかしらぁ〜?」 「そうだな、一億から魔王と言ったけど……実際は魔王のエナジー総量は5億から上ぐらいが基本だね……一応、若輩の俺でもそれくらいはあるよ」 視線はセレナではなく、遙か遠方の地に向けながら、ナイトは爽やかに答える。 「ふぅ〜ん……ねえ、あなた、ルシアンとか言っかしら? そこの魔王様を計ってくれない? そういう機能が付いているんでしょう?」 「お断りなの、あなたの命令を聞く理由はないの」 スカーレットはセレナの頼みを即答で拒否した。 「可愛くない子〜、主人以外の命令は聞かないってわけぇ〜?」 「主人じゃないの」 「あらぁ〜? じゃあ、あなた達ってどういう関係なのかしら〜?」 セレナは興味深そうに尋ねる。 「ルシアン、ところで姫君のエナジー値はいくつだい? 参考に他二人も計れていたら教えてくれないか?」 「あらら〜、誤魔化しぃ〜?」 「ランチェスタ最大値80000000、セル最大値99999999……正し、セルは目を閉じた状態の時の数値なの。開眼、暗黒風使用時のは測定しきれてないの……」 ルシアンことスカーレットは、セレナのツッコミは完全無視して、ナイトの質問に答えだした。 「ふむ、二人は一応『全身』だからね、封印されていたり、体が借り物だったりするけど……一応もうちょっとで一億(魔王クラス)ってところか……で、肝心の姫君は?」 「……D……推定最大エナジー値120000000〜200000000……なの」 「一億二千から二億? 測定できなかったのかい? 技や術を行使した時の瞬間的な高まりは除外して平時のでいいんだけど?」 「……剣が出現した瞬間に200000000にまで上がったの……その後物凄く不安定なの……常に上下に数千万単位でぶれているの……こんな不自然なの初めて見るの……」 理解不能といった感じの表情で、そう答える。 「コレみたいに、上に瞬間的に跳ね上がるなら珍しくないけど……下に爆発的に下がったと思ったら、戻って、戻ったと思ったら、上に爆発的に上がって……うう……こんな変動の仕方あえりないの……ううううっ〜?」 スカーレットは、セレナを指差したかと思うと、次の瞬間には頭を両手で抱えていた。 「誰がコレよ……あなた、それ以上考えるとボンッ!て爆発するんじゃないのぉ〜?」 コレ扱いされたセレナは意地悪げに笑う。 「コレの言うとおりだね。答えの出ないことをエンドレスに思考するのはやめた方がいい……君はデジタルな思考をしているのだから……」 「うううううっ……解った、考えるのやめるの……」 「あらぁ〜、残念。頭から煙でも吹き出すかと思ったのに……うふっ、うふふふふふふふふふっ!」 セレナはとても楽しげに嘲笑った。 「むぅっ……」 スカーレットは可愛らしい膨れっ面をしてそっぽを向く。 「瞬間的にエナジー値が上がるのは確かに珍しくはない。現に、カシスは100万しかないエナジーを練り上げ、爆発的に高め、瞬間的にアンブレラと互角のパワーを得ていた……」 ナイトが唐突に話題を変えた。 「ええ、凄いわね〜、たった100万で8億と互角に戦うなんて……でも、それはあくまで攻撃力や破壊力といったエナジーの出力の話でしょう? 量だけは誤魔化しようがない……だから、ゼノンは指で数えられる程度奥義を使っただけで真っ白に燃え尽きちゃったけど……私のアンブレラはゼノンとアンブレラを連続で倒しても、まだまだ余力があるわ……闇の姫君の一人ぐらい余裕で倒せる程の余力がね、うふふふふふふっ」 セレナは自分のことのように誇らしげに、そしてとても楽しげに笑う。 「……『私』のアンブレラね……」 ナイトにとって、このセレナはアンブレラ以上に得体の知れない存在だった。 アンブレラこと、伝説として聞いた影の魔王アンブラならあの強さは解らなくもない。 しかし、魔皇の皇子皇女の中では出来損ない、雑魚扱いされていたセレナが『あれ程の強さ』を持っていることは腑に落ちなかった。 エナジーの変動があまりに瞬間的なため、スカーレットには測定できていないが、セレナのエナジーの最大値はランチェスタやセルを軽く凌駕している。 つまり、一億以上……紛れもない魔王クラスのエナジー数値をしていた。 「その上……」 まだ、『全力』も出していない上に、『武器』も使っていない。 「なぁに〜、私がどうかしたぁ〜?」 一瞬、ナイトが自分に視線を向けたことを、セレナは見逃さなかった。 「いや、なんでもないよ。それより、無駄話はこれくらいにしようか。そろそろ『向こう』も本格的に始まるみたいだしね……」 ナイトは、セレナについて考えることをやめ、『向こう側』に視線と意識を集中させる。 「うふふふふふっ、そうね、私のアンブレラの勇姿を見逃すわけにはいかないものね〜」 そして、セレナもまた、視線をナイトと同じ『場所』へと向けるのだった。 二つの爆流の如き光輝が交錯した。 怨讐の十字架とニルヴァーナからそれぞれ噴き出した巨大な光刃である。 「はあああああああっ!」 Dが気合いを込めると、白銀の剣(怨讐の十字架)から噴き出す光刃の出力が爆発的に高まった。 「フフフッ……」 アンブレラはニルヴァーナを握った左の手首を微かに動かし、白銀の剣の巨大光刃(断魔姫輝剣)と交錯している方の光刃を引き、代わりに反対側の先端の光刃で斬り上げる。 「くっ……!」 切り込んだ断魔姫剣を受け止められて引かれ、Dは体勢を崩しており、回避も防御も不可能だった。 咄嗟にエナジーバリアを展開するが、Dはエナジーバリアごとニルヴァーナの光刃に打ち上げられる。 「未熟っ!」 アンブレラは右手を添え両手で握り直すとニルヴァーナを振り下ろした。 ニルヴァーナの先端から爆流の如き光輝が解き放たれ、空の彼方に吹き飛んでいくDを呑み込む。 「ん?」 何を思ったのか、アンブレラはニルヴァーナの両先端から光刃を消した。 「魔狼……」 「遅いっ!」 突然、ニルヴァーナの柄が伸びると、巨大な鋏のような先端が、いつの間にか姿を現していたセルの胴体を挟み込む。 「くぅっ……」 「フフフッ、そのまま胴体をチョキンと切ってあげましょうか?」 アンブレラは意地悪げな微笑を浮かべた。 鋏の如き先端がギリギリとセルの胴体を締め上げていく。 セルが健在なことは別に驚くべきことではなかった。 エナジーバリアを全開で張り続ければ、ニルヴァーナの撃ちだした光輝に溶かされずに耐えきることぐらいはできるだろう。 それはつまり、エナジーバリアを張ったまま光輝に呑まれて空の彼方に消えたDも、おそらく今だ健在であり、すぐに戻ってくるに違いないということだ。 「ちなみに、こんな事もできるのよ」 セルを挟み込んでいる鋏の又が輝きだす。 「なっ……くうあああっ!?」 鋏はセルを挟んだまま、零距離で光輝を撃ちだした。 光輝に呑み込まれて消滅したのか、再び遠くに吹き飛ばされたのか、セルの姿はその場から消失している。 「腐っても元魔王ね、完全に倒しきろうとすると流石に面倒……本当に……しぶといっ!」 伸びた柄を縮め、先端を元の位置に引き戻すと、両先端から再び爆流のごとき光刃が噴き出した。 そして、振り下ろされたニルヴァーナの光刃が、飛来した巨大な電光を薙ぎ払う。 「寝てろと言ったでしょう!」 アンブレラはニルヴァーナの先端から、電光の撃ちだされてきた地上へと、超高出力の光輝を放った。 地上が見渡す限り光輝の大爆発に包まれる。 「ちょっと!? 少しは地上の迷惑を考えなさいよ!」 「これでも加減しているわよ」 声は遙か上空からした。 確認するまでもなく、そこに誰がいるのかアンブレラには解っている。 「貴方も風の魔王もしぶといというより……しつこいっ!」 アンブレラは声のした方を向くと同時に、ニルヴァーナから光輝を撃ちだした。 だが、そこに居るはずだったランチェスタの姿はなく、光輝は空の彼方に吸い込まれるように消えていく。 「……そこっ!」 アンブレラは近づいてくる音と気配を察知し、そちらに向けて光輝を解き放った。 放たれた光輝は、回転して飛来してくる巨大な十字架を弾き飛ばす。 「手が無くてもまだ足があるのよっ!」 全身に爆発的に電光を纏ったランチェスタが超速で飛来し、両足でアンブレラを蹴り飛ばした。 蹴り飛ばされたアンブレラは地上に激突し、舞い上がった土塊と土煙の中に消える。 ランチェスタは、空を駆けて戻ってきた十字架の上に着地した。 そのまま十字架を乗り物にして空に浮遊し続け、地上を見下ろす。 「……ふう、捻りも加えるべきだったかな……」 確かに充分な手応えはあった。 しかし、あの程度で倒せたとは思えない。 「えっ? つあああっ!?」 土煙の中にいくつもの紫黒の煌めきが生まれたかと思うと、無数の紫黒の光輝が空のランチェスタに向かって斉射された。 ランチェスタは乗っている嘆きの十字架を巧みに操って、紫黒の光輝をギリギリでかわし続ける。 光輝の斉射が終わり、土煙が完全に晴れると、地上には大量の日傘だけが転がっていた。 「どこ……うっ!?」 アンブレラが何処に消えたのか瞬時に解る。 背中に寒気を……背後に圧倒的な存在感を感じたからだ。 「実力の違いがまだ解らないの?」 凄まじい勢いで背後の存在感が膨れあがっていく。 「くぅぅ……っっ!」 「失せろっ!」 ランチェスタが圧倒的な恐怖から逃れるように十字から跳躍した直後、シルヴァーナの光刃が十字架を真っ二つに両断した。 「……嘘っ!?」 振り下ろされた光刃の衝撃の余波に吹き飛ばされながら、ランチェスタは見事に破壊され嘆きの十字架を驚愕の表情で見つめる。 「……うざすぎるわ、貴方……今度こそ寝ていなさい……テラ・グラビトロン!!!」 超々巨大な重力球(グラビトロン)が解き放たれ、ランチェスタに接触すると大爆発を起こした。 テラ・グラビトロン、大陸一つを吹き飛ばすギガ・グラビトロンのさらに十倍、アンブレラの千倍以上の大きさの重力球の超爆発は、地上に向かって放たれていたら、地上そのものを跡形もなく消し飛ばしていたことだろう。 それ程の威力を持った一撃だった。 「うふふふふっ、あははははははははははっ! 電光の覇王も今度こそ跡形もなく吹き飛んだわね! 惨めな最後〜、きゃははははははははははっ!」 セレナがとても楽しそうに、狂ったように笑う。 「……100000000……120000000……150000000……200000000……280000000……」 「うふふ……ふっ? どうしたの、あなた?」 スカーレットが普段以上に無表情というか、青ざめたような表情でブツブツと何か言っていることに気づき、セレナは笑うのをやめた。 「嘆きの十字架を破壊したのは拙かったね」 ナイトが自分は事情が解っているといった感じで呟く。 「……どういうこと〜?」 「嘆きの十字架自体が最後の封印だったんだよ。十字架の消滅と共に開放率が100%になり、さらに長い年月の間に十字架に蓄えられていた全盛期の半分以上のエナジーも彼女へと還元される……まあ、一言で言うなら……」 「300000000……400000000……600000000……800000000……900000000……なのおおっ!?」 ボンッ!といった音をたてて、スカーレットが突然倒れた。 「煙吹いたぁ〜? あはははははっ、この子、本当に機械だったの〜?」 「ああ、大丈夫。限界……自分より上の数値を計ろうとしてショートしただけだから……しかし、9億以上とはね……明らかに今の魔王達より遙かに上を言っている……まいったな、これは……」 ナイトは立ち上がると、気障な微笑を浮かべて、態とらしく肩を竦める。 「なるほど……そういうことね〜」 何が起きたのか、もうセレナにも解っていた。 「ほぉんと面白いわね、視てて飽きないわ〜、うふふふふふふっ」 セレナは視線を『遙か遠方の地』へと戻す。 其処には、強大過ぎる二つのエナジーの塊が存在していた。 「……どこに重点を置いて驚けばいいのかしらね……?」 アンブレラは高空に浮遊しながら、テラ・グラビトロンの爆心地に存在するモノに尋ねる。 「全部に驚け〜♪ あははははははははははははははははっ〜♪」 至福の喜びに満ちた綺麗な笑い声が答えた。 「テラ・グラビトロンをくらって健在なだけならまだしも……変身までしないで欲しいわね……えっと……?」 「ランチェスタ! 電光の覇王ランチェスタよ! ちゃんと覚えておきなさい〜♪」 そう、その場所に居たのは紛れもなくランチェスタである。 しかし、今までのランチェスタとはまるで別人だった。 其処に居たのは、少し変わったデザインの修道服を着た十三歳ぐらいの少女ではなく、かって修道服だったと思われる僅かな布切れを体に纏っただけの十六歳ぐらいの少女。 少女は常に全身から爆発的な電光を放電し続けていた。 「あ、やっぱり、別に覚えてくれなくてもいいわ。だって……」 弾けるような閃光と爆音を放ち、ランチェスタの姿がアンブレラの前から消失する。 「つっ!」 アンブレラは何もない真横の空間にニルヴァーナの光刃を斬りつけた。 何もなかったはずの空間にランチェスタが出現し、右拳を光刃に叩き込む。 右拳……無くなったはずのランチェスタの両手は姿の変化と共に完全再生されていた。 「流石ね、ちゃんとわたしの動きが見えたんだ?」 「当たり前よ、少しぐらいスピードが上がったぐらいで……」 「少し?」 今度は音もなくランチェスタの姿が再び消える。 「っ……!」 「見るがいい、真なる電光をっ! 百万雷撃(ミリオンサンダーボルト)!!!」 電光を集束させた拳の弾幕が、ニルヴァーナの光刃を全て粉砕し、アンブレラの全身へと叩き込まれた。 電光の拳の大波に呑み込まれるようにして、アンブレラは地上へと叩き落とされる。 アンブレラ自身の落下の衝撃と、百万の雷拳の爆発が地上を蹂躙した。 百万の雷拳は一発一発が、アンブレラのグラビトロン以上の衝撃と爆発を巻き起こす。 「……くぅっ……あああああああああああああっ!」 全ての電光の爆発を弾き飛ばすようにして、凄まじい紫黒の爆発が地上から放たれた。 紫黒の爆発と共に、アンブレラが地上から飛び上がってくる。 「残念ね、そこまで消耗する前のあなたとこの姿で戦いたかったわ……」 残るエナジーを全て注ぎ込んだのか、ニルヴァーナが今までとは桁違いの出力と輝きの光刃を噴き出させた。 「消え去れ!」 「今はあなたがとってもちっちゃく見える……」 セルやDといった舞い戻ってくるかもしれない相手への余力……後のことなど微塵も考えていない、残る力を全て込めた渾身の一撃がランチェスタを薙ぎ払おうと振り下ろされる。 「電光の彼方に滅せよ! 電光爆砕(ライトニングエクスプロージョン)!」 ランチェスタの電光を集束させた両拳は光刃を打ち砕き、アンブレラ両胸に叩き込まれた。 「ぐっ……ああああああああああああああぁぁぁっ!?」 アンブレラが空高く打ち上げられる。 「散れ」 ランチェスタの呟いた直後、電光の超爆発が空を埋め尽くした。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |